愛を語るには、一生かけても足りなくて。
「そ、そんな人いないよ。いるわけないでしょ」
「……そっか。アヤメ、めちゃくちゃ綺麗になってたから、そういう人がいてもおかしくないと思ったけど安心した」
心底ホッとしたら笑みがこぼれた。
するとアヤメはそんな俺を見て、何故か切なげに眉尻を下げる。
「お願い……帰って。お客様だと思って対応してたけど、もう閉店時間はとっくに過ぎてるの。だからもう帰って。お願い」
離れてしまった手が寂しい。
抱きしめたいのに抱きしめられない、この距離がもどかしかった。
「じゃあ、アヤメが仕事終わるまで外で待ってる」
「な、なに言って──」
「待ってる。ずっと待ってるから。アヤメが来てくれるまで……俺は、いつまででも待ってるよ」
「ちょ、ちょっと、ユウ……っ!」
そうして俺は強引に約束を結ぶと、ひとりで店をあとにした。
諦めてたまるもんか。
十二月の風は、熱くなった俺の身体を冷やしていく。
それでもアヤメを待つ時間はどうしようもなく心地が良くて、世界一幸せな時間だとすら思えたんだ。