僕は愛した人の悪役
僕の名前は村田力(むらたりき)。身長百七十センチ、体重五十六キロの男だ。鏡に映る僕は女の子よりずっと短い髪をしていて、前の学校でテニス部にいたため肌は真っ黒で筋肉も手足にしっかりついている。

今日から僕は新しい高校で勉強する。前の学校でいじめられていて、両親が転校するよう手続きをしたから。

可愛らしいリボンではなくネクタイを結び、スカートではなくズボンを履く。僕は、僕が嫌いだ。だって男だから……。

「力〜!早くしないと遅刻するわよ」

母さんがそう言い、僕は「わかってるよ!」と言いながらかばんを手にする。心の中は憂鬱だ。転校したって何も変わりはしない。

名前も、この体も、何もかもが僕は嫌いだ。



自分が性同一性障害だと知ったのは中学生の頃だった。性についての講演会を聞いた時、初めて自分が体の性と心の性が一致しないセクシュアルマイノリティだと知ったんだ。

小さい頃から、男の子と鬼ごっこをするより女の子とおままごとをするのが好きだった。ズボンじゃなくて可愛いスカートやワンピースがほしかったし、ランドセルも黒じゃなくて赤がよかったんだ。
< 1 / 13 >

この作品をシェア

pagetop