まつげにキスして
ふと、ちょっとした悪戯心が浮かび上がってきた。

屋上の手摺りに手を沿えて立っている彼女を、少し驚かせてみようかという、ついしてしまう出来心というか、完璧下らない遊びだった。

―今思えば、それが全ての元凶であったかと思う。

彼女に存在すら認知されてないんじゃないかということもさておき、俺はそろりそろりと屋上の屋上みたいな小さな広場から階段を使って下りて行く。

幸いその階段は俺の方から見ても、彼女の方から見ても死角となっており、時折吹く秋の寒さを纏った風の音が俺の見方をしてくれている。

そっと物陰から様子を伺う。

『…?』

一瞬ふっと、彼女がこちらを振り向いた気がした。

< 5 / 9 >

この作品をシェア

pagetop