奥手な二人の両片思い
「夏穂ちゃ……! こっちから行こう!」

「えっ、なんで?」

「まっ……前に上川くんがいるから!」



彼女の腕を引っ張って階段を登り、彼らの視界から外れる。



「も~! 他の仮装者達をビビらせてやろうって約束したじゃん!」

「だってぇ……こんな恐ろしい姿見られるなんて……」

「そもそも、菫ちゃんだってこと気づかないかもしれないよ? うちら、普段の姿の面影もないくらい別人になってるし」



そう言われ、階段の鏡で全身を確認した。

確かに……これだと声を出さない限りはわからないかな?



「さ! 行こ!」

「うん……」



──指定されたすべての教室を回り終えた。

渡り廊下を歩いて戻っていると、再び前方から医者の二人組が歩いてきた。


わわわ、これは避けられない!
大丈夫……会釈だけ、会釈だけすればいい……。



「あ! こんにちはゾンビさん!」

「こんにちは~」



先に医者の2人が挨拶をしてきた。



「こんにちは! お仕事お疲れ様です!」

「こんにちは……」



会釈しようと思っていたけれど、みんな挨拶をしたためできず。か細い声で返答。

すれ違う時に距離が近かったけど、なんとか切り抜けた。


良かった……。
これでようやくゾンビの重荷から解放されたよ……。






「怜也くん? どうしたの?」

「あぁ、いや……どっかで嗅いだことがある匂いがして」

「それお菓子の匂いじゃない?」

「そうかなぁ……」
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