奥手な二人の両片思い
交代の時間が来たので店に戻ることに。



「綿原さん、少し落ち着いた?」



顔を覗き込んできた違和感たっぷりの綺麗なお姉さんと目を合わせる。

ずっとスルーしてたけど……この声、どこかで聞いたことがある気がするんだよね。


整っている顔をじっと見つめる。



「……もしかして上川くん?」

「正解!」



ニコッと笑った顔が喫茶店の時に見た顔と重なり、やっと違和感の正体が解けた。



「ごめん! 気が動転してて……」

「いいって! 俺こそいきなりこんな格好で出てきてごめんね?」



「上川怜子です!」と自己紹介する彼の姿をもう1度目に映す。


巻き髪にタイトなワンピース。
胸元にはサングラスを引っかけており、高いヒール靴を履いている。

そのサイズの服と靴は一体どこに売ってるんだろう……。

でもすごく似合ってる。



「……どうしよう、このまま戻ったら、何かあったって心配されちゃうかも」



泣いていたのを思い出して、自分の目が赤くなっていることに気づいた。

文化祭で泣くなんて普通じゃあり得ないことだし、絶対ツッコまれる。


どう誤魔化そうか考えていると。



「あ、そうだ」



突然口を開いた上川くん。

何か思いついたのかな……?


────
──



「あ! 綿原……さん?」

「あっ……みんなお疲れ様……」

「4組のみなさん! 完売おめでとうございます!」



戻るや否や、目をまん丸にするクラスメイト達と顔を合わせた。


女装姿の上川くんにビックリしているのもだけど……私の姿もなかなかだと思う。

だって今、私の顔にはサングラスがかけられているから。

色が濃いため、腫れた目を隠せるとひらめいたらしい。



「じゃあね!」

「うん。ありがとう」



ぎこちない足取りで帰っていく彼を見送り、そのまま片づけに取りかかったのだった。
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