奥手な二人の両片思い
菫side



「すみません! クリームパン下さい!」

「はいよ~! お姉ちゃん!」

「ありがとうございます!」



購買のおばちゃんからクリームパンを受け取り、人混みから抜ける。


やった……! やっと買えた……!

誰もいない階段付近に移動して、初めて購買で昼食を買えた喜びを噛みしめる。

ずっと行ってみたかったんだけど、人が多くて近寄れなかったんだよね。

今日は早く来れたし、ラッキーだったな。


ルンルン気分で教室に帰ろうとしたその時。



「可愛いね〜。1年生?」

「は……はい」



先輩らしき男子生徒達が近寄ってきた。

な、何? 誰……? なんか怖い……。



「俺達と一緒にご飯食べない?」

「いえ……遠慮しておきます……」

「え~、ちょっとだけいいじゃん!」



なんで? なんで私に話しかけてくるの?



「や、やめて……」

「綿原さん⁉」

「青石さん!」



執拗に絡まれて動けずにいたところに、ハンバーガーを持った、クラスメイトの青石さんがやってきた。

私の顔色を見て瞬時に察知したのか、彼らの間に割って入り、私の手を引いてその場を後に。

ナンパから脱出することができた。



「……ありがとう」

「ううん、大丈夫だった? ケガしてない?」

「うん、大丈夫」

「良かった」



彼女は美人だと話題になっていた首席入学者。

そのため、少し近寄りがたい印象があった。

けど……ホッとした顔を見て、優しい人なんだなと感じた。

私よりも背は低いけれど、前を歩く背中が頼もしくて大きく見えた。
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