例えば世界が逆さまになっても




自分では心当たりはないものの、もしかして、四年経っても消えないほどの怒りを彼に与えてしまっていたのだろうか?
不安が不安を拾い、どんどん心臓が速くなっていく最中、彼はぴたりと足を止め、目の前の客室扉のキーを解除した。
そしてカチャリと機械的な音がしたと思ったら、今までの比にならないほどの強さで、彼に部屋に引き込まれたのだった。


次に気付いたときにはもう、彼の強烈な抱擁に、呼吸を取り上げられていた。

「……っ」

いきなり現れた元恋人に半ば無理矢理連れて来られてるというのに、わたしは抗議をあげることもせず、ただ彼に抱きしめられているという状況に心が攫われてしまったのだ。

四年ぶりのぬくもりは、眩暈を起こすほどに激しくて、愛しくて、たまらない気持ちにさせてくる。


「……き、とも……」

友樹、友樹と、好きで好きでおかしくなりそうな人の名前を呼びたいのに、本人がそれを許してくれない。

間もなく、四年ぶりの彼に甘やかな変化を見せはじめたわたしを、まるで頃合いを見計らったかのように、彼はベッドへと誘導していく。

そしてどさりと押し倒されたとき、わたしの真上には彼の顔があって………
目と目が合った瞬間、こんな時なのに、ふと、彼との大学での出会いが思い浮かんだのだった。



あのときとは、反対だ………


咄嗟にそう思ったわたしを、彼は、じっと見下ろしていたのだった。









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