例えば世界が逆さまになっても




「ごめんだけじゃ分からないよ!友樹、四年前も一方的に別れるって言われたわたしの気持ちも考えてよ。今日だって!ねえ、わたし、何か友樹を怒らせるようなことしてたの?友樹、わたしに怒ってるよね?」

思い切り腕を引き寄せて問いかけると、思いの外容易く友樹が振り向いてくれた。


「怒る……?俺が、若菜を?」

ものすごく不可解そうな言い方だ。

「そうよ。さっきラウンジで会ったときから、友樹、ずっと怒ってる。四年も付き合ってたんだから、それくらい分かるわよ」

「そんなわけないだろ。俺は、俺が怒ってるのは若菜じゃない」

「じゃあ誰に怒ってるの?」

「それは……」

否定しておきながらまた口籠ろうとする友樹に、わたしは食ってっかかった。

「また誤魔化すの?ちゃんと話してよ!どうしてこんなことしたの?友樹は何がしたかったの?」

「俺はただ……」

何かを言いかけて、それでも言い淀む友樹。
友樹は口数が少ないけれど、こんな風に途中で言葉を飲み込むようなことはあまりなかった。
言わないなら最初から言わない。あの卒業式のときみたいに、余計なことは一切口にしないのだ。
だからそんな友樹が言いかけてやめてしまうのは、何か言いたくても言えない理由があるのかもしれない。

でも今のわたしは友樹の事情を(おもんぱか)ってる余裕なんかなかった。

だってわたしは、

「この四年間ずっと、友樹を忘れられなかったんだから!」


――ドンッ!

気付いたときには、友樹の背中に拳を叩きつけていた。










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