央弥は香澄のタオルしか受け取らない 番外編  亮将は花のタオルを奪う



女子が男子にタオルを渡す
   それは
  『好きです』
   の告白       
   
 


✳︎⋯⋯ ✳︎⋯⋯ ✳︎⋯⋯ ✳︎⋯⋯ ✳︎



そりゃ、誰だって、好きな子から告白されたい。

彼女が真っ赤になってオレにタオルを差し出す、受け取ってもらえるのか不安そうに。

大きな目にはちょっと期待が(にじ)んでる、

もちろん「好きです」の言葉だって、震えた声で言ってくれる⋯⋯ はず⋯⋯ 。

でも、そうじゃない場合。


例えば。

✳︎好きな子がほっといたら誰かにタオルをあげちゃうかもしれない場合

✳︎彼女が迷ってる場合


自分からタオルを奪いに行かないといけないと思うんだ。

オレには彼女しかいない。

じっと待ってるだけなんてしてられない。

タオルと彼女の気持ちを奪う!



✳︎⋯⋯ ✳︎⋯⋯ ✳︎⋯⋯ ✳︎⋯⋯ ✳︎⋯⋯ ✳︎



「ねー、(はな)のタオル、俺にちょーだい」


奪う、なんてかっこよく決心しても、亮将(りょうま)の口から出た言葉は、ちょっと情けない。

案の定、花は本気にもしていないのか、


「かわいそうに、そんなにカノジョが出来ないの?」


と、遠い目をしながら、亮将を慰めてくれる。


「いや、マジで」


と言ったら、ポンポンと励ますように背中をたたかれた。

亮将は本気なのに、花はぜんぜん取り合ってくれない。言葉も気持ちも、本気と思われていない。

花とは幼なじみだ。
幼稚園に入る前から一緒に公園で遊んでいた。
小学校も中学校も同じ。

そして『タオルの告白』で有名なこの高校に一緒に入学した。

ずっと1番仲が良かった。

でも、亮将は、それこそ幼稚園の時から花に恋していた。

誰よりも可愛くて誰よりも近い女の子。


でもこの高校に入学する頃からなんか花がおかしい。

ちょっとした変な距離感を出してきて、なんだか亮将に愛想笑いみたいな、離れようとしているような。

亮将は焦っていた。

最近、花が一つ上の先輩(※男、イケメン)と一緒に話している姿を見た。

明らかにそいつは花に気がある。

亮将も同じ気持ちで花を見ていたからよく分かった。

だから花がタオルのようなものを持って、1人で渡り廊下を歩いているのを見かけて、ダッシュで追いついたのだ。


「それ!オレにくれ!」


亮将はあわてて少し離れた所から、花に言った。

だって、この渡り廊下、先輩の靴箱の方面じゃないか!


「いや、これ、あたしのハンカチタオルだし⋯⋯ 」


と花は呟いだが、亮将は聞いてなかった。

真顔で。
怖いぐらいの。


「オレにくれ!」


と、亮将が手を差し出す。


「ちょっと待った!」


その時、鋭く先輩の声が割り込んできた。
花が先日2人きりで話していた男だ。

先輩は悠々と近づいてきた。

彼はいわゆるイケメンで、女子からのタオルを断りまくってる非常に迷惑な男だ。

名前は忘れた。

モテる人独特の自信をまとわりつかせて、


「花ちゃんのタオルは俺のな」


悠然(ゆうぜん)と微笑む

亮将は、うざ、と思った。

何だよ、背の高さはさほど変わらない、ルックスだって⋯⋯ そんなには⋯⋯ でも、(まと)っている雰囲気が全然違う、モテ男ってやっぱ違うわ⋯⋯ 。

亮将はサッカー部で、短めの髪を少し立たせている。日焼けして、細身のスポーツ系の筋肉質な、まぁ、いわば汗臭い⋯⋯ かんじ。

対してモテ男先輩は、()れたような黒髪がイケメンの顔にかかり計算されたように色っぽく着崩した制服、香水なのか?いい匂いまでしている。

(お前は要らないだろタオル)と亮将は心で毒づいた。


「いや、タオルが必要なのはオレだ。汗かいてるからな!花のタオルは、オ・レ・の・だ!な、花!」
「だから、これは⋯⋯ 」


と花が言いかけたが、2人とも聞いていない。


「ふっ、まぁ、これで拭けよ、僕のを貸してやるよ。物理的に必要なだけだろ」


と亮将にハンカチを差し出し、艶然(えんぜん)と微笑んでから、


「僕は汗を拭くためじゃなく、花の気持ちをいただくからさ」


と、イケボで花にささやく。


「これは、あたしのだってば!」


と花は怒って2人の間に入った。

すらりと伸びた手足、小顔にぱっちり大きな目。

くるくるしたセミロングの髪。

何より決断が早く、さっぱりした話し方なのに、花は情が深く優しい。

だいたいスポーツ男の好みは、一緒にスポーツ出来る子か、尽くしてくれる子か、その二手に分かれるような気がする。
央弥先輩は完全に後者、完全尽くしまくってる香澄ちゃんは有名だ。

そう言う意味で花は得難い。

運動神経が昔からよくてスポーツも得意なのに、すごく女子力が高くて尽くすタイプだ。

料理もお菓子もプロ級、部屋はいつも綺麗。
ケガの手当てもうまいし、面倒見もいい。
だいちち、すごくスタイルがよくて可愛い。

ちょうどモテると思うんだ

ずっとずっと、小さいときから、全部知ってる。彼女は全部オレのだ。

亮将は突然、花の持っていたタオルを奪って、


「花のタオルはオレのだっ〜」


と叫んで走り出した。

さすがにモテ男先輩も驚く。

花はため息をついたが、でもその頬は赤い。
モテ男に、


「先輩にタオル渡すって事はないですからね。
先輩にタオルを奪われても、追いかけたりしません、それだけは言っときますから」


と言った。モテ男先輩は、


「そんな幼稚なこと僕はしないよ。小学生じゃあるまいし。捨身だな」


とかっこよく言ったが、花はもう走り出していた。

亮将を追いかけて。

モテ男はフゥと色っぽくため息をついて、前髪をかき上げた。やれやれ、欲しい子のタオルは貰えない、か。




オレはサッカー部のスタメンのいけてる男、スポーツマン、のはずだけど。

花の足は早い。

最近こそ男女の体格差で勝っているが、昔はいつも亮将が負けていた。

かなり走って裏門あたりの渡り廊下で、亮将は座り込んだ。

はぁ、はぁ

少し遅れて、花も亮将の真横に座った。


「はぁ、はぁ、ほんと、小学生だよ」


花が「はいっ」と手のひらを出したから、
「ほいっ」とタオルハンカチを返した。


「小学生じゃねーよ。あんなチャラ男のいるとこで、話も出来ないじゃん」
「まあね」
「花はほんとに、あいつにタオル渡すつもり?」
「だったら何なのよ」
「だったら、嫌だ」



と亮将はキツく言った。


「なんでそんなこと言うのよ、何で亮将がそんなこというの?!」
「オレが欲しいからだろ!」


と亮将が言ったら、花の瞳がじわじわ潤んだ。


「だって、中3の終わり頃、亮将、私の事キモいよな、って言ったよね⋯⋯ 」


じわじわ涙の花の顔、


「花はないって⋯⋯ 」


うっ、未熟者な過去の俺。

照れ隠し、恥ずかしくて。

当時のクラスメイトに(はや)されて、そんなこと⋯⋯ 言った⋯⋯ な。

それが、こんな意地みたいに花のタオルを奪って、形だけでもオレの花だと言いたかったんだ。

タオルを奪っても気持ちがもらえたわけじゃない。

本当は。

タオルじゃない、花の気持ちがほしいよ。
 

「子供だったんだ、オレ、ほんとにごめん」


廊下に座ったまま、頭を下げた。


「でも今は、みんなの前で堂々と言える」


頭を下げたまま、上目遣い、花を見た。背の高さが違うから、目が合った。

花は不安そうに瞳が涙で潤んでた。


「オレは花が好きだよ。子供の時から花だけが好きだって!そう、はっきり皆の前でも言えるぐらいには成長した!」


花の瞳が大きく開いて、驚いたようになって、それから明るい光が灯ったみたいに嬉しそうになった。

花が仕方ないな、ってフフッて泣き笑いした。

ドキッとした。


「それって成長?ばかね」


って(つぶや)く。


「成長だと思う。みんなの前で、自分の意見がちゃんと言えて、そのぐらいには自分のことも理解できてる。こんな成長を()げたオレは、これからもまっすぐ生きれると思う」
「じゃあ、私の事もまっすぐ見て、()らさないで」



花への気持ちで心がいっぱいになる。
痛いほど。
亮将は、「ああ」と(うなず)きながら花を抱き寄せた。


「ちゃんと私を好きって言い続けて」


廊下で座ったまま、なんか、部屋みたいに2人きり。

昔年の思いをこめて。

彼女の頭を撫でて、肩を抱いて、髪に顔を埋めたら、花の匂い。気持ちが(たかぶ)った。

覆い被さったら、花もオレの背中に手を回して、オレは下から花に抱きしめられた。
彼女の唇が耳に触れた。


「私も昔から亮将だけが好き」



今日、花の部屋に行く、今までと違う、カレシとして。
だから、ここでは唇だけ⋯⋯ オレのもの。そっと合わさる熱。

オレはだれの前でも言う、本人にもちゃんと言い続ける。


「花が好きだ」って。



〜✳︎〜✳︎〜✳︎〜✳︎〜✳︎〜✳︎〜


オレは花からタオルをもらった。
花は少し赤い顔で、
好き、って言う。

もう、花はただの幼なじみじゃない。

2人きりの部屋。
花をもらう、
オレを全部花にあげる

花はオレのカノジョ。



〜✳︎〜✳︎〜✳︎〜✳︎〜✳︎〜✳︎〜
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