愛で壊れる世界なら、


 一人きりの食事を済ませ、促す世話係の少女に誘われるまま外に出る。
 ひさしぶりに頭から浴びる日光に目が眩み、おぼつかない足取りで庭の木陰へと移動した。

「ごめん、散歩くらいしたかったけど、ちょっと無理かも」
「そうですね。今日はここでゆっくりしましょうか。まずは身体を屋外に慣らすことから始めましょう」

 青白い顔からさらに色を無くしてふらふらするレイチェルに、ユーニは嫌な顔ひとつ見せずに微笑む。笑みで細くなる目は陽射しに青く煌めき、茶色いと思った肩ほどの髪は、それこそ陽射しのように輝いて見えた。

 不思議な少女だった。
 レイチェルより少しばかり年上かといった容姿でありながら、それよりもさらに落ち着きをもった様子。本邸に戻ったり母親のそばについたりとメイドの手が足りなくなったからといって、急にレイチェルの世話係にさせられて困惑していてもおかしくないだろうに、他の使用人たちのように腫れ物扱いもせずに自然体で。

「……あなた、変な人ね」
「よく言われます。お嫌ですか?」
「……ううん。いいと思うわ」

 ユーニの敷いたハンカチに腰を下ろし、そよぐ風に目を閉じる。頂点へ向け昇っていく太陽は力強く、それでも日向でなければ苦痛なほどの暑さでもない。
 さわさわと草木を揺らす風の音、チチチと鳴く鳥の声、穏やかな時間を肌で感じる。

 ……今になって思えば、甘やかされこそしてきたものの、愛され慈しまれてきたわけではなかったのかもしれない。
 貴族の娘とはいえ、五人いる兄弟姉妹の四番目にして三女。いつかは政略結婚を命じられるのだろうなと漠然と考えていたけれど、姉たちのスペアとも思われていなかった可能性すらあるような気がしてきていた。兄は嫡男で、弟はそんな兄のスペアだし、社交界デビューしている姉たちはそれなりに人気があるようで縁談も複数舞い込んでいるという。

 レイチェルとてこれから己を磨いてこそ、姉に負けない令嬢となり、両親や周囲にも認められるようになるのかもしれないが。
 近しく感じていた古参の使用人たちでさえ、事故からこちら、遠巻きにするかの様子で接せられるばかりで、まだ幼いレイチェルの心は冷えていく一方だった。

 皮肉にも、そんなレイチェルのネガティブな予想を裏付けるように、療養という名目ながらに長らく放ったらかしにされた挙げ句、彼女の養子縁組の話が進んでいることを、母親に告げられることになる。

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