愛で壊れる世界なら、




 ごめんなさい。




 それは、誰へ向けてのものなのか。
 床に横たわったまま、ぐるぐると視界が回る。それでも声にならない声で唇が動いた。ごめんなさい。レイチェルはうわ言のように繰り返す。


 帰りたかった。――どこかに。

 会いたかった。――――誰かに。

 謝って、抱きついて、ただいまを言いたかった。


 閉じた瞼にそって、ゆっくりと涙が落ちていく。
 ああ、死にたくないなぁ……。絶望していたはずだというのに、いざとなると生を願ってしまうのはただの本能かもしれない。それでもこうして一人きり、こんなにも暗く澱んだ世界で、やがて必ず来る終わりを待つだけというのがつらかった。

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