明日、雪うさぎが泣いたら


「……ほら、そんなに目を擦るな。もう十分、赤くなっている」


瞼や、目の辺りの皮膚の感覚がおかしい。
ヒリヒリするようで、何も感じない気もする。
擦りきれてしまいそうな目尻に残った水滴を、触れるか触れないか分からないくらいそっと拭ってくれた。


「……っ、いつからですか……? いつから、そんな……病名は……? 」


唇が震えて自分でもよく聞き取れなかったのに、訊かれることはそれしかないと察してくれたのだろうか。


「詳しくは不明だ。……本当に。症状が似ているものもいくつかあるが、はっきりしない。これが他の者なら、呪いだ祟りだと騒ぐのだろうが、私はそんなものを信じていないしな。せっかく友人に陰陽師がいるというのに、医術で治せと言われてしまった」


どこにも行かせないと、いつの間にかぎゅっと恭一郎様の着物を握りしめていた。
もう何も隠そうとはせず、好きにさせてくれながらも、上からその手を包み込まれた。


「……ただ、恐らく治癒は難しいだろうと。何だかはっきりしないのだから、どうしようもないのだ。もちろん、だからと言って、何もしないわけではないが……あまり、効果はなくてな」


繋がれた手は熱く、震えていて。
ああ、そうだったんだ。
恭一郎様の手が、こんなふうに震えたのは――確かに以前にもあった。
もう何度思ったか知れない、「どうして」を心の中で繰り返した。

だから、だったのだ。
いくら恭一郎様が私のことで手段を選ばないとは言っても、ここ最近の変化はあまりに大きかった。
兄妹ではなくなったことや、告白されたこと、同時期に夢を見る頻度が上がったこと――私は、そんなことに頭を悩ませるばかりで。
巧妙に隠されたとしても、きっと感じ取れた異変に気がつくことができなかった。


< 143 / 186 >

この作品をシェア

pagetop