明日、雪うさぎが泣いたら
赤目のうさぎ


《お二人とも、今日はそれくらいにしておきなさい。恐らく、この後すぐに扉が開くことはないでしょう。話の続きなら、温かい部屋でもできますから》

「雪狐……」


たった今脳裏に過ったものが、言葉にならず掠れていく。


「……そうだな」

「……でも……」


雪狐が開かないと言ったら、開かないのだろうか。
理由は変わっても、長年待ち望んできたことがこれから起きないと、どうして言えるのだろう。


「仮に今からここで扉が開くのだとしても、私は帰るぞ。少なくとも、今日は。……残された時間を、こんなこところで潰したくない。頼むから、せめて今日だけでも諦めてくれ」


まただ。
一体、いつになったら涙は渇れてくれるのだろう。
どうしたら、この身体にこれほどの量を留めておけるのだろうと。


「卑怯な言い方で、すまない。……ありがとう」


腹が立つのは自分にであって、恭一郎様にではない。
だから、お礼も必要ないのに。
だって、側にいる方法を失くしてしまいたくないのは私なのだもの。

ぬかるみを歩く間も、その後の車でも。
誰も何も言わない。
何か大事なことを訊きたかったはずなのに、それが何であったか思い出すのを頭が拒んでいるみたい。
途中、高野邸が通りすぎるのを見つめるように、中からそちらを向いた雪狐の後ろ姿が印象的だった。


「……あ……」


私は、この温もりを求めずにはいられないのだ。
言葉らしい言葉は何も浮かんではこないのに、彼の胸に重みを預けたままでいた。


「……すみません」


この場合、体重を預けるのは恭一郎様の方なのに。
最早甘えるのが習慣になっていたのを恥じ、咄嗟に謝ると恭一郎様は不機嫌そうに眉根を寄せた。

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