明日、雪うさぎが泣いたら

側にいて、私が外にいるうちは部屋へ入ろうとしない雪狐を抱き上げ、音を立てて戸を閉めた。
乱暴というよりは怯えているように聞こえる音が、余計に情けなさを煽る。


《……いつの世も、人間の恋情とは上手くいかないものですね。それほど深く想っていてなぜ、てんで違う方を向いてしまうのが常なのか。化け狐には理解できませぬ》

「生きた人間の私だって、そんなの理解できないわ」


子供だからだろうか。
どちらも選べずにいるような、狡い大人になりかけているからだろうか。


《私は社に祀られるような、高尚な存在ではない。ヒトを幸せにするような力も持ち合わせておりませんが。それでも、私は貴女を大事に思っています。雪兎の君》

「ありがとう、雪狐。そう言ってもらえるだけで、もう救われてるわ」


指が震えて、雪狐の毛並みを上手くすくことができない。
哀れむように見上げながらも、されるがままていてくれる雪狐にどうにか笑ってみせた。


「しっかりしなくちゃ。あれが兄様じゃなく、男の人なら、流されるなんて絶対にだめ」


(……よし)


大丈夫。
あの人の本当の気持ちがどうあれ、また通って来られるのであれば。
こちらもきちんと、それなりの対応をしなくては。


(何だか、色恋というより決闘みたいだけど)


はっきりと自分の気持ちが分かるまでは、似たようなものだ。

かくれんぼも鬼ごっこも、もうおしまいだもの。




< 64 / 186 >

この作品をシェア

pagetop