天魔の華は夜に咲く
「フフ、そんなに求められると私の方が戸惑ってしまいますね。いつものセンジュらしくない」


エレヴォスは不思議に思いながらも受け入れる様に優しく頭を撫でる。

「っ・・ふ・・そんな事・・ないです」

センジュの唇を味わう様にペロリと舐めた。

「一体どうしたんですか?教えてください」


熱い息を切らし誤魔化す様にセンジュはエレヴォスを抱きしめた。

「なんでも・・ないです」

「なんでもない事はないでしょう」

「聞かないでください」


センジュの声が震えているのを感じ、今にも泣きそうなのをぐっと堪えているのだと悟った。

明らかに様子がおかしい。

「ですが・・心配ですよ」

「変わりたい・・」

「え?」

「変わりたいんです」


自分に変化を求めた。


_今の自分は嫌いだ。臆病で、弱くて、誰かにすがる事しか出来ない。

だけど、先に恐怖がやってくる。否定という恐怖だ。

フォルノスに拒否される事で更に恐怖が増大した。

あの人は私を受け止めてくれない。諦めるしかないんだ。



「センジュ・・」


センジュは自分の想いから逃げ出したかった。

誰かに想いを打ち消して貰いたかった。


「フォルノスに何か言われたんですね。相変わらず意地の悪い」


怒った口調でエレヴォスが言った。状況を察した様だ。


「いいんです。もう・・」


諦めた様に言った。


「今は・・エレヴォスさんしか見えませんから」


その言葉にエレヴォスは驚きを隠さなかった。

予想外の展開だろう。


「驚きました・・そんな事を言うなんて」

「・・変ですか?」


「私としては嬉しい限りですが、駄目ですよ。他の男に使っては」


エレヴォスはセンジュをベッドに押し倒した。


「すみません。スイッチが入ってしまいました」


ドキン


真っ直ぐに見つめられたが、センジュはその目を逸らさずに見つめ返した。


「震えてますよ。無理をしてるんじゃありませんか?」


体がカタカタと震えているのをセンジュも感じた。

エレヴォスはカマをかけた。センジュの気持ちを確かめる為だ。

「これ以上は、止まりません。止めるなら今ですよ」


ドキン


ドキン


ドキン



_優しい人だな。

こんな私を気遣ってくれて。


「平気です」


エレヴォスは掴んだセンジュの手首から手を離し、指を絡めた。


「お願いがあります。センジュ」


「は、はい」


「もう、私も敬語はやめますからあなたも私をエレヴォスと呼んで下さい」

「え?」


「アルヴァンは気にしていないみたいですけど。ずっと根に持っていたんです。何故私は、"さん”付けなのですか?」

「えと・・尊敬してるんです。大人だし、立ち振る舞いも綺麗だし」

「フォルノスも年上ですよ?何故?」

「あ、あの人は意地悪だから、呼び捨てでいいやって思って。適当ですよ。セヴィオは同い年くらいだからだし・・」

「なるほど、解りました」


エレヴォスはクスリと笑うと、センジュの頬にキスを落とした。


「我が君の命令と先ほどは申しましたが、あなたの事はちゃんと真剣に考えています。心が無くては無礼ですからね」


ドキン


そのキスは耳に向かった。

はむ、と耳たぶを甘噛みされた。

「私はあなたの特別になりたいのです」

「ひゃっ」

「センジュ、名前を呼んで」

「エレ・・や・・」


耳たぶを吸われ、何度も甘噛みされた。


「エレ・・ヴォス・・んっ」


いつのまにか絡めていた指は解かれ、その指はセンジュの服を滑った。



「センジュ・・沢山感じて欲しい。私から目を離さないで」


「はい・・」



_うん、これでいい。




これでいいんだ。




この想いはやっぱり勘違いだったと




そう思いたいから。









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