天魔の華は夜に咲く
パタン。

センジュの部屋の扉が閉まった。


「んっ!?・・ううんっ!?」


扉が閉まった瞬間にアルヴァンの唇がセンジュの唇を奪った。


「ちょ・・アルヴァンさ・・んっ・・っ!」


壁に押し付けられ、噛みつく様に何度も唇を奪われた。


_ヤバい、めちゃくちゃ怒ってる・・怖い・・。


大きな手がセンジュの頬を覆った。


「くっそ・・マジ・・腹立つなぁ・・」

「・・・アルヴァンさん・・」


怒りと笑いが同時にこみ上げてきている。

とてつもなく悔しそうだ。


「なんで俺じゃなかったんだ・・その場にいたのが」

「・・・」

「タイミング良すぎだろアイツ」

「ご、ごめんなさい・・あの・・私・・」


ぎゅううっ。
と力強く抱きしめたが、我に返ったアルヴァンはセンジュの背中を謝る様に撫でた。


「いや・・悪い。お前が誰かに頼りたいときに俺が居なかった。それだけだな」

「私・・その・・あの時はおかしくて・・」

「なんでおかしかったんだ?」


ドキン


確信に迫られ俯いた。


「それは・・言えません・・」

「言えよ。もう驚かねえ。これ以上の事はないだろ」

「・・・」


センジュは頑なに首を横に振った。


「ほら、あっち行くぞ」


手を引かれソファーにかけた。


「言ってみろ」

「言えません・・だって・・アルヴァンさん怒る」

「もう怒ってるっつの」

「・・・」


センジュは小さな手でぎゅっとスカートを握り締めた。

その手をアルヴァンは包むように覆った。


「フォルノスか?」


ドキン


「・・・」


こくり。

小さく頷くので精一杯だ。


「あの野郎も、確信犯じゃねえのか。全く、揺さぶりやがって」

「ち、違います・・フォルノスは私を心配してくれて・・本当は気を使ってくれてるのに、私がそれに応えられないから」

「それで?」

「・・怒らせちゃっただけです」

「ふーん」

まだ怒りが収まらないのか、アルヴァンは残った片方の手でセンジュの頬をムニムニと抓った。


「それが辛くて・・その・・」

「エレヴォスに、か」


_ああ、恥ずかしい。穴があったら入りたい。



「まぁ・・フォルノスは元から変わってる。あいつも頑なに何か隠そうとしてるし」

「・・え?」


その言葉が気になったセンジュはアルヴァンを見たが、意地悪そうにそっぽを向いた。


「不器用ってヤダな。めんどくさそうだ」

「・・・」


やれやれと手を頭に乗せて天井を見つめた。


_俺はあいつが嫌いだ。絶対に協力なんかしない。


「んで?アイツに何を言われたの?嫌いだって直球で言われたか」


冗談ぽくカマを吹っ掛けてみただけだったが、ストレートのストライクだった。

ずーーーーん。


センジュに暗雲が立ち込めた。


「うわ・・あからさま」

「嫌いって・・」

「まぁ普通はそうなるな。普通は」


よしよしと頭を撫でてやると、センジュの瞳から涙が溢れた。


「一生懸命やりたいだけなのに・・」

「うん、そうだな」

「相手を信じたいと思って・・何が悪いんでしょうか」

「うん、悪くない」

「うぅ・・」


_なんか最近俺のポジション、お悩み相談室なんだけど。



「それで、センジュはフォルノスに好かれようとしたんだな?」

「・・まあ・・はい・・頑張ろうって思って」

「そっか」


_ったく、なんでこうなってんだ俺。ああ腹立つ!


少し自分に呆れつつ、アルヴァンはよしと頷いた。


「アイツに惑わされるな。いい加減俺は怒ってる。いっつも、お前はフォルノスがフォルノスがって言ってるぞ」

「・・・はい」

「フォルノスの言う事など気にするな!お前はお前だ!何回も言わせるな!」

「は・・はいっ」


アルヴァンは初めてセンジュに怒りをぶつけた。

その低く響く声はセンジュの胸にしっかりと刺さった。

それに気づいたアルヴァンは手で口を覆った。

「あ、すまない。声がでかかったな」

「いえ・・アルヴァンさん。ありがとうございます。・・心に響きました」

「そうか?ならいいが、俺も結構やけになった」

「はい。でも・・嬉しいです」


涙が一気に止まった。


_アルヴァンさんはいつも私をリセットしてくれる。なんて心強い人だろう。
この人みたいに強くなれたらいいのに。



心から感謝した。
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