綺桜の舞う
あんまり、昔の男の記憶すぎて思い出せないけど。
俺は多分、記憶にだけ存在する母親を、笑顔にさせたかっただけだったんだと思う。
あの人が笑顔になって、それで俺を愛してくれたら、どんなに幸せだろうって。


子どもの時の俺はそればっか考えてて、今も根底はそればっかり。
こうやって、人が笑顔になってくれるなら、それをすることで愛してもらえるなら、喧嘩もするし、ホテルにだって入るし、都合のいい男に成り下がるのなんて簡単。


それが正しいとは思ってないけど、嘘でも、まやかしでも、俺のことを愛してくれてる実感があれば、俺はまだ生きていていいって思えるから。


だから。


「……私、そういうの嫌いです」


こうやって俺のことを真っ向から否定されると、心底死んでもいいかもしれないって思う。
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