綺桜の舞う
「だから言ったろ、役不足って」
「……ぅ、ぐっ」


俺は最後に回し蹴りで動けなくなった白髪を壁に叩きつけた。
コンクリートの、ひび割れる音。
アニメみたいな光景に、ふっと笑いが溢れて、視界が揺らぐ。


自分自身が傾いているのだと、数瞬後に気づいて、ゆっくりしゃがみ込む。


「みっ、みなとくん……っ」


駆け寄ってくる叶奏の背後に路地の向こうに見えた



…………黒くて長い髪。
……多分、襲撃後によく伊織が見てる女だ。


俺は叶奏に意識を戻す。
やけに心配そうな顔。


「……大丈夫、」
「嘘っ、そんなのいいよ、顔色悪い」
「大丈夫だって……いつものことだろ」


俺は掠れた声をこぼしつつ、壁にもたれる。
向こう側に倒れる男は動かない。
叶奏の背後にいるのもぴくりともしない。


「叶奏は?怪我ない?」
「わかんない、腕は痛いけど、それくらい」
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