綺桜の舞う
◇ ◇ ◇


「ねーえっ、湊くん!
今日は私もお料理手伝う!」


家に帰ってきて早々に、カバンをソファに放り出して、パタパタと俺の後ろをついてくる叶奏。


「ん、手洗って」
「んー!」


叶奏はジャーっと水を流す。


「……内部スパイ確定。下の子たちの中の誰か。
今、私の鞄の中に、盗聴器入ってる」


水の音にかき消されるくらい小さな声で、叶奏は呟く。
ソファの上の、敵の悪意に目を向ける。


「包丁使える?」
「苦手……」
「フライパンは?」
「……多分大丈夫!」


いつも通り、叶奏の言葉なんて何事もなかったかのように会話をつなげる。
言葉の代わりに、人差し指で叶奏の背中を2回、ポンポンっと軽く叩いた。






「今日泊まる?」
「ふぇ……?」
「明日休みだし、忙しくなるだろうし。充電」


2人で食事を終えたあと、ガラにもないことを言ってみる。
叶奏を盗聴器から、遠ざけようと、そう言う気持ち。
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