片思いー終わる日はじめる日ー
 あたしたちが横を走りぬけても、彼はてんでマイペース。
「ね、ね、すっごい、ハン、サム、だった、わよ」
 息が切れるならしゃべるのよしなさいよ、んもう。
「アイツ、新入生じゃん」
「うそぉ、こんなに遅い、新入生、いないで、しょ?」
 だったらなんなんだ、あたしたちは。
「制服、新品だった!」
「ンまぁ、すごい観察力。……あんたも、好き、ねぇ」
「ママッ!」
「あら、ママじゃ、ないんで、しょ」
 く…や、しいいいいいい!
 いつか泣かしてやる。


 長い坂の先に見えてきた校門には講義室テーブルが出されていた。
 手をぶんぶん振っているのは、たぶん誘導係の先輩だ。
「新入生ね」
「はい!」
「お母様は体育館にご案内いたします。あなたたちは、あっち……。室内履き、用意してあるわね?」
 あなたたち……?
 うそ。いつの間に。
 ふり向かなくても、あたしはアイツの影のなか。
「1年生の玄関は3階よ。そこにまた案内係の上級生がいるから、クラス分けのプリントはそこでもらって、クラスは自分で確かめてちょうだいね。本当は校内を走ったらいけないんだけど――。今日は時間ないから走ってね。…これにこりたら、明日からは早くいらっしゃいよ」
「本当にもう、この子は、寝坊で、ほほほ」
 ママ! 
 まだあたしのせいにするかっ。
 マジおぼえてらっしゃい。
 ……いつか泣かす。
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