片思いー終わる日はじめる日ー
「伊勢、そっちの内山の標本も見せてくれる?」
 おまけに下をむいたままとはいえ自分から伊勢くんに声をかけたりして。
「……………………」
 (ばく)をのぞく5人の視線が宙にただよって交差する。
「おっどろい、た」
 代表で感想を述べたのは石川。
「内山、チェック、O型」
 麦は気づかないふうに、たんたんとチェックを続けてる。

 人見知りですぐ赤くなるし、休み時間も本を読んでる――これがよく見るとクルマの雑誌だったりするんだけど――麦をよく知らない子は、ひよひよの秀才みたいに思ってるかもしれないけど。
 本当は、あたしもずっと、そう思おうとしてたみたいなところがあって。
 こんなふうに、きっぱりしたオトナな態度を見せられると、石川はしょげかえった犬みたいだし。
 あたしは――、あたしはなんだか耳のうしろがズキズキする。
 中井の顔や、血で真っ赤になったティッシュが頭のなかでぐるぐる回る。

 ちょっとわかったつもりになると、麦は突然ちがうひとになる。
 勝手に決めつけると、こんなふうに本当はなにもわかってないのかなって、あたしに思わせる。
 あたしは、こんなにズルイ男の子をほかに知らない。

 自分からはなにひとつしゃべらないくせに。
 なんだってあたしは、そのいちいちを気にしてやったりするわけよ。

 ズキズキは、だんだん心臓がふたつになったみたいになってきて。

 あたしは、なんだか――変。

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