すてきな天使のいる夜に
ーside 冨山ー



俺は、小さい頃の沙奈をよく知っていた。



昔から、あの家とは繋がりがあった。



自分の親と沙奈の両親は仲がよかったんだ。



あの日、あの夜に沙奈の人生を大きく変えてしまう出来事があった。




彼女が今16歳になるのであれば、今から16年前の話になるのか。




彼女が産まれたあの日、俺もあの場にいた。




彼女の父親は、元々重度のアルコール依存症を持っていた。




体の弱い奥さんと結婚してからは随分と人が変わりまるで別人のようにしっかりとした人間に変わったらしい。




沙奈のお母さんは、「沙夜」という女性だった。




24歳の歳に沙奈を産んだ。




心臓病と、喘息、癌を抱えていた彼女は沙奈を妊娠してから産むことが難しく降ろした方がいいと言われていた。



だけど、沙奈の母親はそう言った医師にこう話した。



「この子を抱くことが出来ないのは寂しいです。


それでも、沙奈に私の残りの人生を託したいのです。


私はもうすぐこの世を去ります。


私の命を、愛する我が子に継ぐことが出来るのであれば本望です。


私がいなくなってしまう。


そうしたら、せっかく変わることができた『あの人』がまた悪い方向に戻ってしまう。


自分の役割を、この子に託すのは申し訳ないけど、何かを彼に残していきたいのです。」




それが、沙夜の最後の願いだった。




沙夜が、流産する前沙奈の父親へ自分の命より子供を助けて欲しいと話していた。



その父親も、それが沙夜の最期の願いだからと沙奈の命を優先した。




それなのに、沙奈の父親は沙奈が産まれてから1度も沙奈の顔を見ることなんてなかった。



沙奈は、低出生体重児として産まれて来たけど、生命力は強かった。



少しずつ大きく育って来て、沙奈の退院が決まった日、沙奈の父親は沙奈を引き取ることはなかった。



そんな沙奈を見て見ぬふりができず、沙奈を引き取ったのは自分の親だった。



元々、自分の家は虐待や沙奈のように孤児になった子供を引き取るような仕事をしている。




沙奈が3歳になる歳に、父親が反省の意を見せて沙奈を引き取りに来た。



それが、沙奈の人生を大きく変えてしまうことになるなんて思わなかった。



沙奈をあの父親へ渡したことに後悔させられた。



自分の親や、自分自身もあの日に沙奈を引き渡さなければ良かったとずっと後悔している。



自分の元で沙奈を育てていれば、あの子はあんなに悲しく辛い過去を背負わずに済んだ。



傷つくことなんてなかったのに。


本当に不甲斐ない…。
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