夢みたもの

すれ違い

「ほら皆、ホームルームが始まるわよ!?席に着いて!」


静まり返った教室に葵の声が響き渡った。


「先生が来るわ」


葵が手を打ち鳴らすと、その音に反応して、皆がノロノロと動き始める。


「ほら、鞠子も席に着いて」


まだ言い足りない様子の鞠子の背中を押して席に向かわせると、葵は身を屈めてあたしに囁いた。


「ひなこ?しっかりしなさい。・・・大丈夫よ」

「・・葵・・・」

「また後でね」


そう言って席に戻って行く葵の後ろ姿を眺めながら、あたしは言い様のない不安で一杯になっていた。


クラスメイトがコソコソ話をしている。

その会話の端々に、時折、あたしや航平、ユーリの名前が含まれていて、チラチラと視線を感じた。


「雪村さんって・・・堤君と付き合ってるんじゃなかったの?」

「叶って、前に教室に来た特クラの編入生でしょ?じゃぁ何?あの時から2人はデキてたって事!?」

「堤君・・・可哀想」

「・・・って言うか、雪村さんスゴくない?あんな大人しそうな顔してるのにさぁ?」

「見た目じゃ分かんないよ、か弱そうなフリして・・・ホントは何してるんだか・・・」



憶測と興味本位で飛び交う噂。


誤解なのに。

そう思っても、言葉に出す事が出来なかった。

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