あなたに呪いを差し上げましょう
英雄は。

このひとは。


御伽噺の登場人物でも、苦しみを知らない機械人形でも、剣術に秀でた知らないだれかでもない。簡単に消費できるような偶像ではないのだ。


ルークさまは、英雄と呼ばれる、強がりで生真面目な、ただのひと。


そのひとに、お前は英雄だろう、すごいのだろう、国を守れと強要することなんて、どうしてできるだろう。

たとえわたくしが、忌子だろう、そのちからで敵国を呪い滅ぼせと強要されたとしても、わたくしは呪えなどしないように。


いくら褒め称えても、いくら戦果があっても、このひとが死線を潜り抜けたことに違いはない。


敵国ではひとごろしとそしられる。

ただの言い換えだ。戦う一瞬一瞬の代償に変わりはない。


……おそらく、このひとが抱える恐怖にも、なにも変わりはないのだ。


その、赤黒く血ぬれた手に触れたかった。


「神は、ひとを選びません。忌子だからといって、わたくしだけを儚くしようとも、生かそうともなさいません。今回は偶然生きることになった、というだけのことだと思っています」

「そうだね。そうだろうね」


穏やかに頷いたルークさまは、ふわりと笑った。


「あなたというひとは、私という者は、困った立場にいるね」

「ええ、ほんとうに」


お互いに笑い合う。


おそらく、わたくしが一番通じると思って選んでくださった言葉だった。たぶん、わたくしたちは生きることにおいて、似たもの同士だから。


「ああ、そうだ。忘れるところだった。ただいま戻りました」


予想外の話題に目をしばたたく。なんとか反射で返した。


「お待ち、しておりました。ご無事でなによりです」


あまりにもぎこちない返事に、ああもうあなたは、と喉を鳴らして。


「ただいまを真っ先に言うと、言ったでしょう」
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