エリート官僚はお見合い妻と初夜に愛を契り合う

 やがて、上品な色留袖を纏った泉先生がすぐ近くの席までやってきたので、私は居ずまいを直して彼女を見つめる。

 すると、私の姿に気づいた先生が人懐っこい笑みを浮かべ、話していたゲストに断って、こちらに来てくれた。

「先生、お久しぶりです」

 声を掛けながら思わず立ち上がった私に、先生はいきなり抱きついてきた。

「花純ちゃ~ん。来てくれてありがとう。贈ってくれたお花もすごく素敵だった。店内に飾ってあるから、あとで見てね」

 優美で繊細な京料理を愛し、自身の見た目も五十代とは思えないほど美しい泉先生だけれど、性格はとてもおおらかでパワフル。

 こんなふうに過度なスキンシップをされるのも懐かしいなぁと思っていると、体を離した彼女がふと驚いた声をあげる。

「あら、そちらはもしかして、料亭伏見の家出したお坊ちゃん?」
「ご無沙汰しています、泉先生」

 座ったまま、少々気まずそうに頭を下げた伏見くん。私はその態度をふと疑問に思って両者に尋ねた。

< 175 / 233 >

この作品をシェア

pagetop