渚便り【完】

瓶詰めにされた密かな想い

ぼー、と海を眺めていた。
燃えるように真っ赤な空からゆっくりと沈んでいく夕陽が、水面の下に姿を消そうとしている。
まるで映画のワンシーンで見覚えのある見事なサンセットだな、なんてことを考えていたら、後方から砂を踏む音が聞こえてきた。


「いきなりどうしたんだよ」


思いの外早く戻ってきた伊波にそう問えば、


「手紙を書いてきたの」


誇らしげに一枚のメモ帳を掲げた。
手紙?誰に?なんで?
頭の上に浮かべたつもりのクエスチョンマークが伝わったらしい。伊波はくすぐったいような顔をして答えた。


「アニキへのラブレター、みたいなね」


きっと俺が促すような発言をしたからだろう。
出し抜けに起こした伊波の行動が、まさか俺の要望へ応えるためのものだったと知り、申し訳なさが込み上げてくる反面その内容が気になってしまう自分がいた。
しかし流石に見せてほしいだなんて要求まで押し付けるのは、図々しいにもほどがあると弁えていた俺が黙考していたら、


「けど、やっぱり直接本人には伝えられないからさ、せめてこういう形でね」


静かに告げた伊波は、一呼吸置いてから「読むね」と短く付け足す。
俺が座ったまま無言で頷いたのを合図に、伊波は手紙に目をやり口を開いた。
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