勇者がうちにやってきた▼【完】
「いい加減戻らないといけない時間だな。それじゃちーちゃん、またそのうち」
「あつし君、ちーちゃんのこと宜しくね~」


にこやかに手を振る両親を玄関で見送る。
ドアが閉まると、あーくんはやれやれとも言いたげな顔で私を見てきた。
けどそれだけで、特に何かを追求してくる様子はなかった。
やはり全てお見通しってわけか。


「そういえば魔王と姫はいないんですね。いつも魔王に任せっぱなしですし、久しぶりに夕食作りでもしますかねー……おっと、なんですかこれ美味しそうですね!」


台所に向かったあーくんは、冷蔵庫の中にあるシュークリームを見つけて喜んでいる。
こうしてなんとかピンチを凌ぎ切った私だけど、さっきの考察が頭の中で渦巻いて、なんだか気持ちが晴れなかった。

あまり深く考えず一ヶ月も過ごしてしまったけど、結局あーくんのクエストってなんなのかな。
それが明白になった時、きっとみんなは私の前からいなくなっている。
ならいっそ、そんな日なんて来なくても良いのに、なんてことを考えてしまうのはズルいだろうか。
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