勇者がうちにやってきた▼【完】
目覚ましのアラームにうなり声を上げながらの起床。
カーテンの隙間から差し込む朝日に目を細める。
外からは小鳥のさえずりなんかが聞こえてきて、のどかな朝が来たことに不思議と安堵した。

なんだかおかしな夢を見ていた気がする。
ゲームのなかから勇者がやってきて、お風呂を覗かれるって内容。
あれは覗かれるってレベルじゃなかったけど。
私がすごく怒って、勇者にビンタしたり刃物向けたりしていた。

私ったらいくらモテないからって、勇者にすがり付くってのはどうなのよ。しかも夢の中で。
あまりにも男が寄ってこなさ過ぎる現実に嫌気がさしたあまり、こんな夢を見てしまうなんて、まるで欲求不満みたい。相当喪女を極めてきてるな。
コンビニに行ったら強盗に巻き込まれる夢も見たような気がするし。
せめて夢のなかくらい、マトモなヒロインになりたいものだ。


「ふあ~あ……」


寝癖についた髪をワシャワシャとかいて、大きな口を開けてあくびをしながら階段を下りていく。
何やら食欲をそそる匂いが漂ってきている。何かを焼いているジューシーな音も。

……あれ、お母さん帰ってくるだなんて言ってたっけ?いつもいきなりだからなぁ。
などとまたあくびをしながらリビングに出れば、


「おはようございます。随分寝ぼすけさんですね」


そこには見知らぬ男――いや、勇者がいた。
土砂崩れのようになだれ込んで来た昨夜の記憶が脳を満たす。
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