勇者がうちにやってきた▼【完】
空が青から橙色に変わろうとしている夕暮れ時。
帰ったら真っ先にマオちゃんにお礼を言おうと決めていた私は、玄関に立った時既に良からぬ気配を察知していたのだ。

家のなかから微かに聞こえてくる女の声。
そしてその声とは違うねっとりとした声。
疑念が確信へ変わるまでには、そう時間はかからなかった。


「わたくしの寝込みを遅いやがるなんて、丸焼きにしてさしあげましょうか、このメスブタがァァァ!」
「ああ~ん姫ちゃんったら過激ぃ~!もっとぉ!もっと激しくしてぇ~ん」


玄関に鞄を置いてから騒がしい二階に上がれば、お母さんの寝室――姫が寝ていた部屋で理解しがたい光景が広がっていた。
あれは卍固めという技だっただろうか。何かの漫画で見たことがある。

姫が見知らぬ女の子にキメている技を思い出しては特に驚愕することもなく、私は恐ろしく冷静に突っ立っていた。
先に部屋にいたあーくんとマオちゃんが話しかけてくる。
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