月夜に私は攫われる。







「先輩、来てくれたんですね!」


約束通り、ドアをスライドさせて教室の中に入ると何度見ても慣れない美貌の男子生徒─浅霧くんが出迎えてくれた。


キラキラと光を放つ笑顔に、目がっ...目がぁーッと悪魔の格好をした脳内の私が叫び出す。

ダメだ外見に騙されてるなっ、と天使の格好をしたもう一人の私が警告した。

目を抑えて悶絶する私(悪魔)を、もう一人の私(天使)がしっかりしろぉぉおと抱きかかえる、という謎の寸劇が頭の中で繰り広げられる。



......ハッ、一瞬意識を持っていかれた...っ!!



放課後の教室で、二人きり。しかも相手は昨日会ったばかりの男子で、私に脅迫まがいのことをした後輩。正直気まずすぎて喉から心臓が出そうだった。


遠くから吹奏楽部のドラムの、ドゴドゴドゴッと追い立てるような音が聞こえてくる。


「あの、わ、私は何をすれば良いのかな」

「そんな気張らなくても大丈夫ですよ」


肩の力を抜いて下さい、と困り顔で言われたけどちょっと無理そう。


「言ったじゃないですか。ただ先輩と話したいって」

「.....あ、うん。そうだね」


.....確かに言ってたかも。

浅霧くんは長いまつ毛を伏せて、躊躇いがちに口を開いた。


「.....俺、先輩に聞きたいことがあって」

「え、なに?」


深い闇色の瞳が、私の目を覗き込んでいる。吸い込まれるようで、目が離せない。


「先輩は、どうしてあの本を好きになったんですか?」

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