月夜に私は攫われる。
ちらり、と浅霧くんを見ると、彼は何故か背筋が凍るくらいの無表情だった。


「は??」

その開いた口から零れたのは、地を這うような、低い声。


「誰ですか、それ」

「だ、誰って.....。浅霧くんは多分知らない人だよ?」

......私と同じ学年だし。


「それでも良いので、教えてください」

浅霧くんの双眸が真っ直ぐに向けられる。



.....そんなに知りたいのか。

まだちょっと気になってるくらいの段階だし、名前を言うのは気が引ける。

でも浅霧くんが無言で見つめてくるから、その圧に押されてしまう。


「絶対誰にも言わないって約束してくれる..?」

「約束します」


被せるように断言されて、ちょっとたじろいだ。

.....し、信じるからね!?


「ええと....、柔道部の、高瀬綾人くん...です」

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