アンコールだとかクソ喰らえ!

 チャン、ス……?
 怪訝(けげん)そうな、しかし、どことなく間抜けな声が、半開きの口から落ちて行った。

「事故のことで忙しいだろうけど、時間空いてるときでいいから、飯、行きてぇ」
「……え、ああ、」
「あと、連絡先、知りてぇ」
「え」
「同窓会の幹事してた佐武(さたけ)に聞いたけど個人情報だからって教えてもえなかった」
「……はぁ、」
「俺の、教えるから、行ける日あったら、連絡して……ほし、い」
「……」
「……だめ、か……?」

 するり、握られた手の甲を来栖の親指が撫でる。
 ダメ。
 毅然(きぜん)とした態度でそう言えば、きっともう、それ以上食い下がられることはないだろう。あの日を境に決別した、元より繋がりなんてなかった私達だ。
 ありがとう、も、ごめんね、も、ちゃんと伝えた。代わりに何かをして欲しい、なんて、ただのわがままだ。大人のすることではない。

「……別に、いい、けど、」

 そう、思ってるのに、口からは全く別の言葉が滑り落ちてきた。

「でも、それで最後だからね」
「……」
「さ、い、ご、だからね?」
「……」
「返事!」
「……分かった」
「なら、手、離して」

 気を付けて帰ってね。今日はありがとう。
 もう一度、礼を述べて、掴んでいた財布を離し、携帯を代わりに掴んだ。
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