やさしいベッドで半分死にたい【完】
微笑ましく思ったり、どこかで胸に黒いものが渦巻いたりしている。心臓は、ずっとひねくれっぱなしだ。


「俺も大事にしているつもりなんだが……」


茶化すような瞳にも、真面目な色にも見えた。言葉を失っていれば、やさしく髪を撫でられる。何かを口に出そうと思えば思うほど、すべてが散らばって霧散していく。


「よそ見しないでくれよ?」


次の言葉尻で、今度こそ喉で笑うような声が漏れていた。すぐ隣の瞳を見つめれば、やさしくアーチを描いた眦が見える。

心底大切なたからものを大事に見つめるような、そんな視線だった。


もうずっと前から、あなた一人に夢中ですよ。その一言が喉の奥に突っかかったまま、何一つ言えずに俯いた。


「あ、南朋さん、電話……」


見つめる先の端で、携帯が光っている。口に出せば、花岡は仕方なさそうに携帯を取り出して、真顔のまましばらく画面を見つめていた。


「お電話ですか?」


問えば、ため息をついている。どうやら、無視できなさそうな電話らしい。胸に、小さな針のような何かが刺さる。すべてを捨てるなんて、本当はできないんだと思う。現実は、どこまでも追いかけてくる。


「……出てきて、下さい」


できるだけ丁寧に笑って言えば、何かを言いかけた花岡が「悪い、すぐ戻る」と耳打ちして席を立った。


このにぎやかな世界でただ一人、私だけが取り残されていた。

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