やさしいベッドで半分死にたい【完】

私だから、花岡は追いかけてくれた。私を愛する人がいるのだから、私だって、自分のこころを大事にしていいはずだ。


爪先から髪の先まで、力が(みなぎ)ってくる。

何かが心のど真ん中から広がって、今にもはじけてしまいそうだ。

花岡は教えてくれた。

すてきなもの、すきなもの、たいせつなもの――あいするもの。


すべてがこの胸に馴染んで、突き動かしてくれる。


私以外にはなれない。私は藤堂周でしかない。私だから、あなたと出会えた。それのどこにかなしいことがあるだろうか。すべてが愛おしい。

私の好きなこと、私のやりたいこと。何度も胸の内でつぶやいて、体を起こした。流れっぱなしの涙に苦笑して、それでも立ち上がる。


ラックに積み上げられたCDが並んでいる。人差し指で触れて、ついに笑い出してしまった。

こんなにも愛してくれていたのか。

ずっと応援してくれていた。もらったメールの数々がよぎって、ついに爆発してしまいそうだ。


『この間のコンサートの音源を聴きました』

『体調は良くなりましたか?』

『指の調子はどうですか?』

『最近はずっとこの曲を聴いてます』

『無理せず、好きな時に弾いてください』

『いつまでも、待っています』


花岡が使っただろう机に向かった。勝手にペンを取って、立てかけられたノートにもう一度笑ってしまう。


「こんなもの、ずっと持っててくれたの……」


引き当てたのは、古い5線ノートだった。10年前、先生に空き時間にでも作曲をしてみてはどうかと言われて、結局書きもせずに練習室に置いてきたノートだった。表紙に自分の名前が書き込まれている。
< 195 / 215 >

この作品をシェア

pagetop