Xmas eve in2020
「おはようございます!」


そう挨拶して、私は作業場へ入る。時刻はまもなく、午後1時。挨拶を間違えてるんじゃないかって?ううん、間違ってない。人々がそろそろ昼休みを終えようかという時間に、私のこの日の業務はスタ-トする。


「ローストチキン、売場薄くなってる。上がった商品、すぐに売場だ。」


そこへ売場の状況を確認して来た、部門責任者(マネ-ジャ-)の吉田慎司(よしだしんじ)さんがそう言いながら、戻ってきた。


「あっ、マネ-ジャ-、おはようございます。」


「おう、おはよう明日香(あすか)。今日はこれから激混みだからな、気合い入れて頼むぞ!」


「はい!」


マネ-ジャ-の檄に、私は元気よく答えると


「私、出して来ます。」


と申し出る。


「そうか、じゃ頼む。」


「はい。」


そう答えた私は、パートリーダ-の松井優子(まついゆうこ)さんに声を掛ける。


「おはようございます。これ、出しちゃって大丈夫ですか?」


「ああ、おはよう明日香ちゃん。うん、大丈夫、よろしくね。」


「はい。」


私、斎藤明日香(さいとうあすか)は、全国に展開する総合ス-パ-「グッドライフ」に勤める入社2年目の24歳。担当部門は惣菜つまり、おかず売場の社員。私は松井さん達が作ったローストチキンをトレイ一杯に積むと、売場へ品出しだ。


「いらっしゃいませ!」


そう挨拶して、一礼するのがバックヤ-ド、作業場から売場に出る時のルール。私の今日の1日の始まりだ。


今日は木曜日、平日だ。通常なら、お昼時の買い物が一段落して、お客様の入りも、割と閑散としている時間帯だが、今日はいささか様相が異なる。そう、今日は12月24日、クリスマスイヴ。


クリスマス媒体で、これでもかというくらいに飾った売場に、かれこれ2ヶ月近く耳にして、いささか食傷気味になっているクリスマスソングがBGMに流れている。全ては、今日この日の為の演出だ。


品出しが終わり、ボリュ-ムが付いた売場に満足し、他の商品の様子も一瞥して


「ありがとうございます。」


また一礼して、作業場へ戻った私に


「明日香。じゃ、俺は昼休憩に行って来るから、よろしくな。」


「はい、いってらっしゃい。」


開店3時間前の朝7時から、陣頭指揮を執り続けているマネ-ジャ-は、ここでようやくの昼食タイム。さすがにお腹も減ったはず、ごゆっくり。


ちなみにマネ-ジャ-が、私のことを名前呼びなのは、お付き合いしているわけでも、私が売場のアイドルだからでもなく、同じ部門に私の2期先輩の斉藤隼人(さいとうはやと)さんがいるから。だから、マネ-ジャ-だけでなく、売場の仲間はみんな、私のことは名前呼びだ。
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