翡翠の森

そっちこそ、何故そんなに悲しそうな顔をするのだ。
寝室で他の女を語りながら、この体を腕に留めて。


「もっと、自分の身を思え。残念ながら、これが答えなのだろう? ……今の私たちの」


そっと目尻を拭われ、エミリアは驚愕した。

――泣いている。こんな自分が。

彼が体を起こし、思わず手を伸ばす。


「あ……」


アルフレッドが驚いた表情を浮かべ、エミリアは手を引っ込めた。

何をしようというのだ。
もしかしたら、いや、そんな馬鹿な。彼を引き留めるなど、するはずもないのに。


「貴女は何を望んでいる。操りやすい、間抜けな王か。それとも……」


再び頬に手が降りてきたが、エミリアは何も言えなかった。
『はい、その通り』などと、言えるはずないではないか?
そう、肯定できないだけのこと。
よもや、彼の心を欲しがっているなどあり得ない。


「貴方が欲しいと言ったら、信じて下さいますか」


声が震える。
そんな自分が嫌だった。


「……いや」


すぐに否定され、クスリと笑う。
正解だ。
嘘以外の何でもないのだから。


「だが……それが本心なら、どんなにいいかと思う私もいる」



< 176 / 323 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop