翡翠の森
乙女が消えた日




・・・


「……っ、く……」


痛みに顔をしかめる。
鎖で繋がれた両手首が擦れ、血が滲む。
堪えきれずに漏らした声が反響し、様々な感情がロイの中で渦巻いていた。

焦り、苛立ち、不安。


「……ああ、ったく……」


それらを払拭しようと、わざと大きく悪態を吐いた。だが、後悔はさほどできなかった。
どこかで、こうなることを予期していたからだ。
ただ、それがとても意外な形だっただけで。


《……ったく、王子様が聞いて呆れるよ。何やってんのさ》


マロが文句を続けてくれる。
悔しいが、この暗い場所で囚われの身となっている今、彼のおかげで気が紛れるのは確かだった。

「そんなことより……ジェイダはどうしてる? 」


本当は、もっと他に心配すべきことがあるのだろう。
自分が囚われていることが、トスティータで発覚すれば火蓋を切る理由となってしまう。
キース辺りが喜びそうな展開ではないか。
それに何故、ここに閉じ込められることになったのかも。


(……どうして)


それほどまでに、恨まれていたのだろうか。
やはり、自分は彼らにとって敵にすぎなかったのか。
今まで信じてきたことは、すべて幻想でしかなかったのか――。


(いや、違う。そんなはずない)


ぐるぐる思考が回る度、決まって辿り着くのは。


《……それが、何度も呼びかけてるんだけど》


ジェイダ。



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