翡翠の森





・・・



部屋に入っても、何をどうしたらいいのか分からない。
アルフレッドにはああ言ったものの、雨を祈るほど心の余裕はなかった。
浮かぶのは透明な雫ではなく、あの青色の瞳だなんて苦笑するしかない。
自分のことなのに、あまりに現実離れしている。
泣こうにも泣けないジェイダに焦れたのか、ふいに両手首を取られて驚いてしまう。


「ジン……」

「酷いじゃない」


聞き慣れない口調。
やや荒く手を引かれてつんのめりそうになり、すんでのところで踏み止まった。――なのに。


「私から、せっかくの任務を奪うなんて」


パッと手を離され大きく前に傾き、その勢いのまま、ぎゅっと抱きしめられた。


「祈り子なんてやめる。その為に、貴女はここに来たっていうのに」


矛盾した言葉を続けるジンに、ジェイダは堪らず腕をまわした。


「そうね。……でも、雨は降るって」


マロが言った……とは、言えなかった。
まずはロイと話したかったし、今の彼女の状態ではとても信じてはくれないだろう。


「どんな根拠があって? 私はジェイダの護衛なのよ。それを少しも果たすことなく、失うかもしれないなんて……! 」


柔らかな感触に包まれる。
彼女が護衛だと言い張るのなら、これはきっとこの内側まで守ってくれているのだと思う。


「私を庇って、ジンに何かあるのは嫌だわ。でも、万一の時の為に、ロイはジンを頼ったんだと思う。……まだ、先は長いわ」


ジンは激しく動揺している。
敬語を取っ払った、率直な話し方も。
豊かな胸が当たって困るくらい、抱きしめる腕も。
ジェイダ本人が恐怖に支配されるのを抑え、喜びすら与えてくれる。


「大丈夫よ、ジン。きっと上手くいく。……ジンの質問にも、まだ答えられてないし」


にっこりと笑ってみせれば、ジンも何とか笑ってくれた。


「キャシディ王子にとっても、マクライナー殿にとっても。乙女が貴女だったことは、大誤算かもね」



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