翡翠の森

(……誰も、怒ってくれなかったのに)


敵地であるはずのこの国で、こんなにも大事にされている。

ジンは泣いてくれたし、普段にこやかに振る舞っているロイも怒鳴ってくれた。
何も言わないでいたアルフレッドだって、こうして悔しがってくれている。


「アルフレッドこそ。もっと自分の願望を、表に出してもいいんじゃないかしら。……少しくらい、大丈夫よ」


ロイが自分を道化としている一方で、アルフレッドは扱いやすい第一王子でいなければならなかったのだ。


「……そうだな。いい女が来てくれるのくらい、願っておくことにするか」


彼らしくない言葉に、それが本心でないことが分かる。


「お前らみたいな、手のかかる奴じゃないことだけは言っておくか。これ以上、疲れるのはごめんだ」


その盛大な溜息以外は。
そう言われても……と思う反面、確かに申し訳ないとも思う。


「お似合いだということだ。せっかく惹かれ合っているのなら、互いの国の為にも上手くやれ」

「な、何の話なの」


照れながらもアルフレッドを見上げると、初めて見たくらい屈託なく笑っている。


(もっとこんなふうに笑える日が、早くきますように)


アルフレッドは王になったのだ。
王位継承が終われば、その次にくるのは血を残すこと。
ジェイダやロイにだって、してあげられることはないのかもしれない。


(軽々しく、頑張ってなんて言えない)


「応援しているから」

「私やロイがいるから」


思いついた言葉は全て口にしたくなくて、結局何も言えなかった。
できることと言えば、目的を達成する為に力を尽くすことだ。


(でも、ちょっとだけ。ちょっとだけでも、心を軽くしてあげられたら)


愚痴を聞かせてくれてもいいと思うのは、勝手だろうか。

青い瞳も、金の髪も。白い肌だって、よく見れば一人一人違うのだ。
青色が深かったり、薄かったり。
髪色だって、この兄弟のようにブロンドそのものの人もいれば、はしばみ色に見える人もいる。
同じ国の人でも違うのだから、一歩外に出れば全く異なる人がいるのは当たり前だ。
目の前の人を、友人だと思うことだって普通のこと。

たとえ、アルフレッドが自分をどう思っているか、分からなくても。




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