ささやきはピーカンにこだまして

 似てるのは母親ゆずりの、茶色で、(たち)の悪い髪だけよ。
「わたしはこんなマヌケ面してないわ」
「姉貴っていっつもこうなんですよね。自分のほうが鼻が低いもんだから」
「…………」
 このやろう。
 小松に言ってるふりして、うしろの女の子たちに聞かせてるな。
「いやん、八木(やぎ)くん、それはひどーい」
「あはははは」
 ばか。
 なにさわやかに笑ってるのよ。
 あんたのうわさは高等部まで広がってるんだからね。

『中等部の生徒会長、渋谷のクラブで見たぞ』
『――が中等部の生徒会長と、吉祥寺でデー卜してんの見ちゃった』
『中等部の生徒会長って――…』

 食堂に座っているだけで聞こえてくる《中等部の生徒会長》ネタを小耳にはさむたびに、姉がどんなに肩身の狭い思いをしていたか。
 名前より肩書のほうが有名だから、だれもあんたとわたしがキョーダイかもしれないなんて思わないでくれたのが救いだけど。
 この真面目な姉に、どうしてあんたみたいな弟がいるかしら。
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