ささやきはピーカンにこだまして
 しかし……。
 わが弟ながら、なんという早業。
『ずっとクラスが違ったから、ぜんぜん話したことなくてさ』
『友だちになれるかなぁ』なんて。
 そわそわしながら、しおらしいことを言っていたのはいつよ。
 もうそのアイドルちゃんと、名前を呼びつけにするほどの《お友だち》になっちゃったわけ?
(じゅん)たら。早く!」
 子どもみたいに焦れて呼ぶ二紀(にき)の声に反応したのは、今までわたしの視界のなかで止まっていたジーンズの脚。
 その脚は、あちこちの机をひやかしながら進んでいるせいで不規則なひとの流れを横切って、ひょうひょうとやってきた。

 女の子たちが、お互いの肘を突つきあって。
 すすすと空けたスペースに立ち止まる。
 ……なるほど。
 二紀のように、気軽に声をかけられるタイプじゃないのだな。
「こんにちは」
 わたしの目の前に立ったミドリジュンは、つばだけ赤い黒のキャップをかぶっていて。
 深窓のご令嬢のように青白い二紀とちがい、さすがに元軟式テニス部のキャプテン、健康そうな肌色だけど。
 さわやか体育会系な見た目のわりに近寄りがたい雰囲気なのは、わたしにもわかる。
 なにしろ真っ直ぐ見下ろされているから。
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