ささやきはピーカンにこだまして
 ぐしゃっ!
 不吉な音をたててつぶれたのは机の上の大事な大事な名簿ノート。
 ガタガタッ ゴウッ ガゴガッ
 なんだか下のほうでしたのは、小松がとなりでアタフタ逃げ出そうとして、スチールの机と椅子のあいだに太腿をはさんだ音らしい。
 さすがに中等部から4年もいっしょだと、わたしの性格をよくご存じで。
(じゅん)、行こっ。……小松先輩、失礼します」
 二紀(にき)もミドリジュンをわたしから放そうと、必死の形相で彼の黒いスタジャンの腕を引っぱっている。
 それをみーんな許して、30秒の黙とうタイム。
 こんの…やろう。
 今は……今は……、がまんしてやる。
 今は大事な勧誘の時間なんだから。


 それから、ほとんど躁状態で、新入生2名追加。
 脈拍が90くらいに下がったか…と思うころ、となりでひっくりかえっていた椅子をおずおず伸びてきた手が元にもどして。
「……ごめん」
 小松が帰ってきた。
「わたしに謝れる根性があるなら、なんであいつにガツーンと言ってやんないのよっ。あいつ……思いっきりバドミントンをばかにしたのよっ!」
「無理ないよ。だって、実取(みどり) 準て軟テのジュニアチャンプだろ。どっかで聞いたことある名前だと思ったんだよねぇ」
 ため息つくなぁ――っ!
「…あんなやつ、ボール踏んで、ひっくりかえって、武田みたいに足の骨でも折ればいいのよっ」
「そんな罰当たりな……」

 ミドリ ジュン!

 だれが《おねえさん》よ!
 わたしはアンタのキョーダイか!
 羽根つきだってぇ?
 バドミントンのことなんか、知りもしないくせに。
 そ…れよりなにより。
 いっっちばんアタマにきたのは、あの態度。

 あいつ、手ぇ振ってた。
 二紀に引っぱられながら、ずっと。
 にこにこ笑いながら、ずーっと。
「ばかにしてっ!」

 ちょっとでもかわいいなんて思っちゃって。
 どぉぉぉぉぉして、くれよう。
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