声と性癖
10.月が綺麗ですね
しかし、正式にお付き合いしましょう!とはなったものの、シフト制の結衣と、とにかく忙しい蓮根とでは、なかなか時間を合わせることが出来ない2人なのだ。

主にメールアプリの連絡ばかりで、声を聞くこともままならない日々である。

やっと、連絡がついた日の夜、
『結衣さんが、切れてきた気がします。』
電話口からは蓮根の低い声が聞こえた。

「えーと、蓮根さん…?」
『涼真と呼んでください。お付き合いしているんだし。』
少し寂しそうなのが、電話口からも伝わってきて、結衣は頷く。
「…っ、そうでした。」

『会えないからって、他人行儀にはならないで下さい。寂しすぎる。』
確かにその通りだ。
申し訳なかった……。

「ごめんなさい。」
『謝らないで。責めているわけではないんです。』
はあ、とため息。

受話器から聞こえる息の音に、結衣はどきん、とする。
「来週は週末、土曜日が早上がりで日曜日がお休みですから。」
『万難排して、休みにします。』

いや、万難排すまでのレベルでは……。
むしろ、そこまでの気合いて…。

『結衣さん、今、おうちなんですよね?』
「はい。涼真さんは会社?」
『そう。』
苦笑を含んだ声。
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