天降(あもり)の約束
あいつの特大フライボールをキャッチしたことで、私は何かが、目覚めてしまった。
あいつのあのフライボールは、間違いなくホームランだった。私はホームランを、取ってしまったんだ。

あの素敵な、大空を背景にした景色が、忘れられなくなってしまったんだ。

ソフトボールを辞めようかな、と思っていた私はその日以来、全く辞めようとは思わなくなった。むしろかえって、ソフトボールに熱がこもるようになった。

夏休みも連日、男子野球部と女子ソフトボール部の練習は続く。練習時間は必ず一部かぶる。

あの特大ホームランを打ったあいつ。私はそれまで、男子野球部員をほとんど個体識別していなかったが、それ以来、あいつのことだけ、分かるようになってしまった。あいつがバッターボックスに立ってバッティング練習をすると、分かってしまう。そう思って見れば体格も良いし、打球音も、他の部員と明らかに一人違う。紅白戦の打順を見てても、あいつは四番で、明らかに中心選手だった。

名前は、大槇 空。みんなからソラって呼ばれているのを聞いた。

夏休みはそうして過ぎてゆく。
そして、夏休み最終日。北高では例年、夏休み最後の2日は、どの部活も活動自粛とされているらしい。宿題をしっかり終わらせられるように、という配慮だ。

しかし私は、宿題は、正直とっくに終わっていた。昔から、コツコツやるのは、嫌いではない。というか、早めに終わらせとかないと、不安で仕方ない。だって熱出すかもしれないし、手を骨折しちゃうかもしれないじゃない!

高校入ってみて思うけど、結局、遊び仲間も部活のメンバーになっちゃう。練習のスケジュールとか考えてもしょうがないし。なんで、この2日も、遊ぶとしたらソフトボール部のみんなとなんだけど、どうやら宿題を終えているのは私くらいのものらしく、みんなは宿題をやるらしい。

つまんないのー、と思ったけど、どうせ遊ぶとしても、大したことは出来ないし。

それに。

今の私は、なんだか、とてもやる気に包まれていた。部活に対して。中学から始めてこのスポーツ歴4年目。最高のやる気だ。

それもこれも。

あいつの、素敵な、打球を見ちゃったから。

雲に乗った気分。

私にとって、ぼーっと時間をやり過ごすだけだった部活の時間が、今は、キレイな空をめぐれる、最高の時間になったんだ。

だから。

部活は休みだけど、私は学校のグラウンドに行くことにした。練習、したくて。

人生初めての自主練。

なんかとても、緊張、します。。

学校に到着する。部活の活動自粛期間だから、かつてないほど、シーンとしている。セミの鳴き声だけが、響く。

私は元々、内向型だから、一人でこうして学校を使えることは、嫌いじゃないな、と思った。

ジャージを着て来て、自主練だからユニフォームに着替えなくてもいいやと思って、駐輪場に停めて、そのままグラウンドに向かう。

私は今でも思う。私の初めての自主練の日が、私をまた変える、運命の日になったことは、偶然じゃない、と。

あの日私は、あの場所にきっと、呼ばれたんだと思う。

だってそこには、あいつが、あなたが、いたから。

ただ一人、黙々とバットを振るあなたが。
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