緩やかなオレンジ
大人になった自分を想像できない。進学や将来の目標ですら見えていないというのに。
この町に残ってこの丘が変わっていく姿を見るのだろうか。その時横に美紀はいるのか。俺はもう少し素直に心を開くことができるようになっているのだろうか。
「慎吾、中田先輩って知ってる?」
恐れていた話に自然と唇を噛んだ。
「知ってるけど」
「どんな人だと思う?」
「俺よりお前の方が詳しいんじゃないの?」
思わず低い声になる。あの人の名前以外の情報なんて知りたいとも思わない。
「そっか……」
そう言ったきり美紀は黙ってしまったから俺もそのまま言葉を発することはしなかった。
緩やかに流れる雲を見てから目を閉じる。美紀と過ごすこの時間だけは誰にも邪魔されない。
「ねぇ慎吾」
一緒に空を見ていた美紀が名を呼んだ。
「いつも空なんか見て楽しい?」
「あー……まあな……」
自分でも正直物好きだと思う。暇さえあればここに来て寝転んで空を見ていた。
勝手に自転車置き場で俺を待っている美紀と一緒に帰って、美紀の家に先に着く。俺はそのまま家には帰らずにいつもここに来るのだ。
「雲、見てると面白いだろ」
「ふーん……慎吾って暇だね」
この時間の魅力が美紀に伝わるとは思っていない。魅力を伝えようとも思わない。
俺の口数の少ないこと、面倒くさがりなところも美紀は理解している。
理解してくれる大切な幼馴染が他の男に告白されたことを知っても、俺は美紀の反応を聞くことが怖い。
それきり、俺と美紀は再び黙って空を見ていた。
いつの間にか俺は寝ていたらしい。気がついたら空はオレンジ色に変わり、少し肌寒くなった。
ふと、横を見ると美紀はまだじっと空を見ていた。口の端が少し笑っている。