コイノヨカン

喧嘩

入社して2ヶ月が過ぎた。
研修期間も終わり、私も一人前にシフトに組み込まれる。

「栞奈さん。今日は6時上がりだったわよね?」

最近は奥様が帰宅時間を確認するようになり、完全に娘のような扱いになっている。
ありがたいことと思いながら、後ろめたくもある。

「栞奈さん。この前の模試、英語の成績が凄く良かったんです」
嬉しそうな希未ちゃん。

もちろん私も嬉しい。
毎週家庭教師をした甲斐がある。

「時間大丈夫か?」

起きてきた専務が、私と希未ちゃんの方を向いて声をかけた。

「あっ」
「ああ」
2人の声が重なる。

「栞奈さんも渉と一緒に行けばいいのに」
奥様の余計な一言。

私は聞こえないふりをして、キッチンを飛び出した。


確かに、同じところで働いているんだから、一緒に行けば私も楽ができる。
満員電車に揺られることもないし、朝だって1時間近く余裕ができる。
でも、それは無理。
重役出勤なんてできないし、何よりも今の生活を会社に知られることがイヤ。
どうせあと数ヶ月で終わってしまう契約交際。
ひたすら静かに、週1のデートを重ねるしかない。



ピコン。
ん?
専務からのメール。

『今日の会議資料、玄関に忘れてなかったか?』

ええ?
満員電車の中でカバンをゴソゴソ。

ああああ。
ない。

『すみません。忘れました』

『俺が持って行くから』

『はい。お願いします』

いくら社会人になっても、あわてんぼうの性格が治るはずもなく、今日も失敗をしてしまった。
どっぷり後悔に浸りながら、私は会社に向かった。
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