maybe 恋の予感~イジワル上司の甘いご褒美~

なんでも新店舗が入る近くに人気のカフェも新しく店を構えるらしい。

カツカツと手入れの行き届いた革靴の足音を立てて総務部のフロアに入ってきた天野さんは、庶務課にいた私の姿を見るやいなや手を引いて総務部長の所へ向かった。

「すみません。もうしばらく彼女が必要なんです」

そんな説明だけで納得出来るはずがないのに、部長はニコリというよりニヤリとしながら了承を出し、私はものの数分で企画部へと送り返されてしまったのだ。


再び企画部で働き出した二日目。
朝出勤した時点でなんとなく社内がそわそわしていたのには気付いてた。

それでも企画部と付き合いの浅い私には何が噂になってるのかもわからなくて、ただ自分にあてがわれたデスクに座ってパソコンを立ち上げメールのチェックをしていた。

「おはよ」

ぽすっと私の頭を持っていた新聞で叩いたのは天野さん。

新聞片手にコーヒーなんか飲んじゃって、朝から嫌味なくらい爽やかな人。

「おはよう、ございます」
「ちっちぇー声、まだ寝ぼけてんのか?」
「失礼な、起きてますよ」

こうやっていちいちからかわれるのにも慣れてきた。

というよりは、構われるのが日常になってしまったというか。

上司なのに気兼ねなく言いたいことを言えるのは気持ちがいい。

第一印象は最悪だったけど、仕事が出来るのに変に壁がないというか、自信はあっても驕りがない天野さんにどこか惹かれるものがあるのは事実だった。

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