結婚した次の日に同盟国の人質にされました!
 編入試験から10日経ち、ジルはトマトの種を植える為に温室に来ていた。

 温室内は黄色のフリージアや桃色のゼラニウム、色とりどりチューリップの鉢植えが所狭しと並び、今が春だと感じさせてくれる。

「ジル様、ここに居らっしゃったんですね」

 温室の中でセルトレーに用土を詰めていたジルは、ドアを開いて中に入って来たマルゴットの方を振り返った。

 今日はモリッツがおらず孤独感を感じ始めていたため、マルゴットの顔を見てホッとした気持ちになる。

「あらマルゴット。姿が見えないから今日もまた打ち合わせに行ってるのかと思ったわ」

「今終わったんです。ブラウベルクの人間て本当にマニュアル化が好きみたいで、また使用人マニュアルを作り始めてるんです。ジル様の侍女としての経験から私の意見も聞きたいと質問攻めにされてました」

「それだけマルゴットが信頼されてるってことじゃないかしら? 誇っていいと思うわよ」

「でもあまりに多く呼び出されると、ジル様のお傍にいられなくなるから私としてはあまり……。まぁいいです。ジル様は何をやっているのですか?」

「トマトの種を蒔くの」

「おお……ついに……」

「ええ、ハーターシュタインだと2月には種を植えていたのだけど、ブラウベルクでは3月下旬~4月中旬がいいらしいから、今がちょうどいいのよ」

「緯度の違いでその辺も考えないといけないんですね……。何かお手伝いする事あれば何でもしますよ」

 種蒔きは簡単な作業なのでジル一人でも出来るが、目を輝かせるマルゴットを見ると、何か任せたくなり、周囲を見回しながら考える。
 ジルは作業台の上に置いていたトマトの種の袋に目を止めた。

「紙か何かにトマトの品種名を書いてもらえるかしら? 2種類植えるから、何のトマトなのか区別しやすいようにしたいの」

「品種名ですか」

「ええ。甘いトマトのオーブストルビーンと劣悪な環境に強いトマトのローターリッペンシュティフトこの2種類を区別して育てたいから、分かりやすいようにしたいのよ」

「『ルビーの様な果物』と、『赤い口紅』……ですね。うーん……ちょっと待っててください」

 マルゴットは濃紺のドレスのポケットから羊皮紙と羽ペンを取り出し、作業台の上でサラサラと文字を書いていく。

(この子のドレスって、どんな構造になっているのかしら……? この前は分厚い本も出て来たし……)

 ジルはマルゴットのドレスをジロジロと見ながら「う~む」と唸った。

「ジル様?」

「何でもないのよ!」

 顔を上げたマルゴットは可愛らしく首を傾げた後、ジルに羊皮紙を差し出した。

「出来ました。他に手伝う事はありますか?」

「有難う。えっと……じゃあこのトレーに薄く水を汲んで来てちょうだい」

「かしこまりました」

 名札状になった羊皮紙をジルに手渡し、マルゴットは水を汲みに行く。
 マルゴットから手渡された羊皮紙は畳まれていて、それを開いてみると、六芒星のマークが描かれているのに気が付く。

(呪われたトマトが出来そうだわ……)

 ぞわぞわするが、ジルは深く考えない事にして作業を続けることにした。

 1つのセルに1つずつ種を植え、その上からそっと土をかける。

「ジル様、水を入れてきました」

「有難う。こちらもバッチリ。後はこのセルトレーをマルゴットが持っているトレーに入れて、下から給水させてやればいいはずよ」

「ではこの作業台の上に置きますね」

 マルゴットが置いた水入りのトレーに種を植えたセルトレーを重ねて置き、土の空いたスペースに、品種名が書かれた羊皮紙を差し込む。

「芽が出るのを待つの楽しみですね」

「そうね!」

「それはそうと、ジル様ちょっと痩せて来ましたね」

「え!? 本当に!?」

 マルゴットは真剣な顔でジルの身体を眺めている。

「毎日着替えを手伝っているから、あまり変化に気付かなかったんですけど、今離れたとこから見たら、横幅が薄くなった気がします」

「横幅って、自分じゃ確認しづらいわね! でもマルゴットが言うんだから間違いないわ」

「毎日歩くだけで、こんなに効果出るんですね」

「ウォーキングもそうだけど、最近食事のメニューを変えてもらっているのよ」

「そういえば、この前離宮の料理長さんとお話してましたね」

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