結婚した次の日に同盟国の人質にされました!
 球根を握っているだけで、心が温かくなっていくようだ。

(ハイネ様はやっぱり、優しい方なのかもしれないわ……)

「いやはや……、女性に球根を贈る男を初めて見ました。ハイネ様はまだ18歳。歳若い方ですので、女性に何を贈ったら喜ばれるのか分からないのでしょう。お返事を書かれるのでしたら、優しいお言葉をかけてあげていただきたいです」

 オイゲンの言葉に、ジルは慌てて首を振る。

「球根をいただいてとても嬉しいですわ! ハイネ様は私が植物栽培を趣味としている事をご存知だから贈ってくれたのだと思うのです」

「なんと……。お二方は思いのほかお互いを分かり合っていらっしゃるのですね」

「どうなのでしょう」

「ハイネ様は厳しい方なので、同じ年頃の貴族の少女達からは怖がられているのです。ジル様のご趣味が伝わる程交流出来ているなんてすごいですよ」

 ハイネの外見は万人受けしそうなのだが、あの口の悪さだ。同年代の少女達から憎しみを買っていたとしてもおかしくはない。ジルは思わず遠い目をしてしまう。

(もしかして私を妃にする事にしたのって、あの方がモテないからなんじゃ……。ご自分の持っている素材を活かしきれてないなんて、不憫な方だわ)

 ジルは他人事ながらため息をついてしまった。

「ハイネ様は現在どの様な状況に――、あ、ハイネ様という問い方はおかしいですわね。ブラウベルク帝国とハーターシュタイン公国の国境付近の戦況を教えていただけるかしら?」

 オイゲンは少し迷う様な顔をした後、口を開いた。

「戦況ですか。そうですね……。つい2日前に、ハーターシュタイン公国から開戦の宣言なしにフリュセン南方の我が国の哨戒所が3か所爆破されました。 これを受けましてブラウベルク帝国は爆破をハーターシュタイン公国からの明確な敵対行為と見做し、公式に抗議している状態です。向うが無視するか、白を切るようなら、ブラウベルクも仕掛けていくでしょう」

 オイゲンの話を聞き、ジルは悲しい気持ちになる。

(やっぱり、ハーターシュタインは積極的に戦争を行う国なのだわ。しかもそれを正しく国民に伝えていないだなんて……)

 戦争を行う事は国民に対して負担を負わせる事になる。
 身の危険、税額の引き上げ、物流の阻害、それ以外にも色々あるのだ。にもかかわらず、自国の決断を偽るという事に、ジルは強い不信感を感じずにはいられなかった。

「教えていただき、有難うございます。ハイネ様は緊張しているのかもしれませんわね。それなのに私を気遣ってくれるだなんて」

「ハイネ様が戦争に関わるのは今回が初めてですので、当然緊張しているでしょう」

「そうでしょうね……」

(ハイネ様にちゃんとお返事を書きたいわ)

「ジル様、ハーターシュタイン公国大公のお手紙はお読みにならないのですか?」

 どう書いたものかと考えを巡らすジルに、オイゲンはもう一つの封筒を指で示した。

「あら……、つい忘れてましたわ!」

「ハハハ、大公のジル様の扱いを考えれば忘れてしまいたくなる気持ちも分かります。ペーパーナイフを持って来ているのでお貸ししますよ」

 素で忘れていたとも言えず、ジルはオイゲンに曖昧に微笑んだ。

「ペーパーナイフは必要ありませんわ」

 ジルは封筒の側面を手で千切る。場所が悪かったらしく便せんまで破けてしまったが、気にする事はないだろう。

”君がブラウベルク帝国の皇子を誑し込める程の女だとは思わなかったな。大したものだよ。女って怖いよね。この前側室にした女なんか、他の男との子を僕との子だと偽ってたんだ。本当に気分が悪かったから追放したよ。一応言っておくけど、君が殺されたとしても、自業自得なんだから僕を恨まないでよね? 死体すら受け取る気はないから――テオドール・メレンドルフ・フォン・ハーターシュタイン”

 読んだ瞬間ジルは手紙をグチャグチャに丸めた。

「自分はご夫婦間での手紙の内容を見るのに抵抗があったので、そのままお渡ししたんですが……あまり良くない事が書かれていたんですね。申し訳ありません」
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