男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている
 心中とは、相思相愛の二人が合意の上で一緒に死ぬことのはずだ。
 巻き込み心中ということは、ピケの合意なしに一緒に死ぬということで、だから、つまり……。
 ピケはそれ以上考えることをやめた。
 結局そうならなかったのだから、考えるだけ無駄だ。今はそれよりも聞きたいことが山ほどある。

(そう。ガルニール卿を捕らえた、とか)

 聞き間違いでなければ、ノージーは確かにそう言った。
 ピケは首をかしげて思索する。
 ガルニール卿に協力するよう取引を持ちかけられたのは昨日のことである。
 ノージーを助けるために告白しようと決めたのが昨晩のこと。
 そして今日は告白のための勝負服を買いに王都へ出てきたわけで、その間に一体何があったというのだろう。

「つまりそれは、ピケ嬢が生きていて良かった〜という確認作業だとでも言うのか?」

「ええ、そうです」

「なるほど。獣人の恋はまだまだわからないことだらけだな。巻き込み心中とは、初めて聞いた。マルグレーテ様に話しておけ。きっと喜ぶ。さて、私は……いや、俺は行くとしよう。ピケ嬢への説明は任せる」

「言われなくても」
「ではまたな、ピケ嬢。今度は女同士でエステにでも行こう」

 私はおまえをもっと磨いてみたい。
 アドリアーナはニヤリと微笑んだあと、アドリアンの姿になって部屋を出て行った。
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